無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

漫画投句「東京BJ(柳沢きみお)」

Gさん(仮名)「人生で最もハマった漫画家というわりに、『大市民』を除けば柳沢先生の作品を扱うのは初めてですね」

 ごいんきょ「ああ。だって、『すくらんぶるえっぐ』とか語ろうとしたら思い入れが深過ぎちゃって、書く前にお腹いっぱいになっちゃうのよ(笑)」

 

G「でも、物凄い多作な人ですから他にも色々あるでしょう」

ご「それはそれで、わざわざ一作品だけをこんな所で紹介したくなるほどの内容とは感じなかったりな(笑)。ま、ここで一作品単独で扱う気になるのは、『DINO』『妻をめとらば』『月とすっぽん』『俺にもくれ』、そのくらいかねえ。

  集英社から離れて一本立ちした記念作の『月とすっぽん』は例外として、好きなのはハードボイルド系のものだな。『妻をめとらば』は、面白くはなかったんだが(笑)、なんか忘れられない作品だ」

 

G「『翔んだカップル』なんかはどうなんです? 最大の代表作ですけど」

ご「初期のラブコメ時代は嫌いでもなかったけど、どんどん酷い事になったもの(苦笑)。なんでアレが人気になったのかわからん。ま、少年誌史上初のラブコメだったのが大きいんだろうが。

  でも、ま、あれもあれでそういう意味で漫画史に残るものだから、いつか扱うとは思うけど」

 

G「それで柳沢先生の作品を実質初めて扱う今回は、『東京BJ』というのは?」

ご「格別の思い入れが有る『すくらんぶるえっぐ』を除けば、柳沢作品の中でわしが一番好きなものだからだな。

  これはね、デビュー当時から行き当たりばったりで作劇してきた彼の作品としては、初めて完成度が高かったものだとわしは評価しているのよ」

 

G「へぇ~」

ご「先ず、その前に『DINO』という漫画が小学館ビッグコミックスピリッツに載っていたんだが、これが彼の初のハードボイルド路線なんだな」

 

G「『DINO』は亡き父の復讐のために、父から経営権を奪った大会社に潜り込む話ですね」

ご「そうなんだけどさ。詳しいことは『DINO』の時にでも語るけれど、これが如何にもの彼らしさで、行き当たりばったりで設定を考えてるだろっていうのがミエミエだったのよ。それでも、なんとか無理矢理に辻褄合わせてたけどね。

  で、本人は、それで訓練されたらしくって、それからハードボイルド系の作品も増えたし、以後の作品は、どれも稚拙な行き当たりばったり感が無くなったんだよ」

 

G「それで『東京BJ』も完成度が高くなったと」

ご「そう。こちらはミスターマガジン連載だったかな。『DINO』終了後、すぐに『東京BJ』。小学館講談社を渡り歩いているのが、如何にも彼らしい」

 

G「BJというのは、どういう意味なんです?」

ご「ブラックジャーナル」

 

G「あ。なるほど。如何にもハードボイルド系って感じですね」

ご「上司をぶん殴って会社を飛び出した男が、一匹狼のブラックジャーナリストにスカウトされるんだな。それから彼のBJ人生が始まる」

 

G「企業の弱みをネタにゆする、言ってみれば羽織ゴロの典型ですよね」

ご「弱みと言っても様々でな。それを元に何千万という金を引っ張るわけだけど、美味しい話には蟻が寄って来るもので、同業者や相手側が雇った刺客などとのやり取りなど、隅から隅まで緊迫感満載よ」

 

G「『DINO』以前の柳沢先生は、真面目な話でもどこか寛げる雰囲気を残してましたけどね」

ご「大人向けの恋愛ものとかは、渋めのもボチボチ描き始めていたけど。ハードボイルドものは『DINO』で手を付けて、『東京BJ』で完全に物にした形。

  で、ハードボイルドの完成型だった『東京BJ』に、それまでの彼らしさを加味したのが『特命係長』で、これは大当たりしたな」

 

G「『特命係長』も企業の弱みを扱ったものですもんね」

ご「『東京BJ』は残念ながら掲載誌が弱かったために、注目もされず短期で終わってしまった。出来れば他誌でも描いて続けて欲しかったんだがな。

  んで、その本当に中核の部分だけは、『特命係長』に活きているというわけだ」

東京BJ(1)

東京BJ(1)