無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

漫画投句「ふしぎトーボくん(ちばあきお)」

 

Gさん(仮名)「これは、ここでも扱った『キャプテン』『プレイボール』の作者である、ちばあきお先生の作品ですね」

ごいんきょ「そうなんだけど、作品世界はエラく違ったものになっているがな」

 

G「スポーツを描いた漫画ではありませんしね」

ご「いや、そういうこと以上に、世界観が全く正反対と言うかな。

  その二作は前にも書いたけど、友情・努力・勝利のジャンプ三原則を植え付けた漫画だったわけ」

 

G「ええ、ええ。その三原則が、ちば漫画から始まったはずだというのは、当時は漫画三段だった、あなたならではの指摘でした(笑)」

ご「ところが、このトーボくんは、先ず友達がいないのね(笑)」

 

G「あ~… それまでの自分が築いた世界を一旦全部崩した感じですかねえ」

ご「”努力”も無い。むしろグータラだけど(笑)、不思議な能力は幾つも持っているの。でも、それは努力で勝ち取った才能ではないのね。

  で、勿論、勝利する事も無いわけ。だって、誰かと張り合うって事が無いから(笑)」

 

G「作品世界を理解するのが難しそうですねえ(苦笑)」

ご「読まないと全く伝わらないと思うが、一応は説明すると、主人公のトーボは小学生で、動物と話をすることができるんだな。それどころか、昆虫や、草花、ひいては地球や星々とも」

 

G「なんだかアブナイ人みたいな…(苦笑)」

ご「それで、周りから変な眼で見られるし、他の人間とも今一つなじめないって事で、父親から施設に入れられていたんだな。物語は、彼が数年ぶりに戻ってくるところから始まる」

 

G「ちょっとメルヘンっぽい感じですかね」

ご「そういう要素も多分に盛り込まれているけれど、もう少し深さも有るんだな。ただ、その深さは表面を眺めていてもわからない。底無し沼のように、ちょっと見、ただの水たまりぐらいかと思って足を踏み込むと、入れれば入れるだけズブズブと深みにはまっていくというな」

 

G「表面でいいので、もう少し理解できるように説明して下さい(笑)」

ご「だから、そんなトーボが、最初はやっぱり動物としか話す気にならないんだけど、一人の少女を切っ掛けとして少しずつ話をする人間が増えていって、学校生活もなんとか過ごせるようになっていく話。

  でも、そういうのが柱ではなくて、あくまでも中心的に描かれるのは、トーボの持つ不思議な能力なのね」

 

G「動植物と話するだけではなくて?」

ご「彼にはUFOも、宇宙人も見えるし、会話も出来る。しかも、それは他の人間には見えないし聞こえない(笑)」

 

G「う~ん… ますますアブナイ感じの話になりませんか(苦笑)」

ご「でも、それが実際の能力として描かれているからね。で、動物たちにもUFOは見えるの。でも、彼らも飼い慣らされたせいか、宇宙人は見えない(笑)」

 

G「トーボくんは、犬猫よりも野生の能力を持ってるんですか(笑)」

ご「そうした不思議な力を、言葉では表現不可能な、ちばあきおならではの木訥とした雰囲気の中で描いていくんだよ。あれは絶対に他の漫画家では描けない世界。唯一無二の漫画だね」

 

G「じゃあ、『トーボくん』は別の作者で復活させようとしても無理ですね」

ご「ああ。後から作者名を図々しく上書きする恥知らずな漫画家は出て来ないだろう。商売にもならないだろうし」

 

G「そこまで言っていいんですか(苦笑)」

ご「それだけ独特な世界って事ね。

  ただ、終わり方があまりに唐突だったんだよな」

 

G「どんな終わり方だったんですか」

ご「それが、トーボには人の嘘を見抜く能力も有ったのよ。最初のうちはみんなにチヤホヤされるんだけど、段々とみんなから不気味がられて、また浮いてしまうわけ」

 

G「たしかに、どんな嘘でも見抜くような人間が居たら、あまり近づきたくないですよね(苦笑)」

ご「子供の世界でも、それはそうなるだろうからな。

  で、トーボはまた施設に戻ってしまうという、唐突で、しかも救いの無い終わり方だったんだ」

 

G「うーん… なんか話の内容といい、既にその時からちば先生は疲れていたんでしょうかねえ」

ご「かもしれんな。だから、ひたむきな友情・努力・勝利の世界から暫く離れたかったのかもしれん」

 

G「そして、トーボくんの後が絶筆となる『チャンプ』ですね」

ご「ボクシング漫画でな。団体競技ではないから”友情”こそ描かれていないが、”努力”に関しては本当に ちばあきお ならではのネチっこさで描いていて、どんどん面白くなっていたんだがなあ。

  わしは月刊で毎月読んでいたから、あの自殺報には本当に驚いたよ」

 

G「ちばあきお先生の業績だのなんだので、やたら『キャプテン』『プレイボール』が持て囃されますけど、『ふしぎトーボくん』のような木訥とした世界こそが、ちば先生本来の世界だったかもしれませんよねえ」

ご「元々がそういう作風だし、あの絵にはああいう世界の方が合うよ、やはり。『キャプテン』『プレイボール』だけで ちばあきお云々を語るのは、ちょっと待ってって感じなんだよな、わしは。

  『チャンプ』でまた、あくなき勝利への追求を描き始めてしまったことが、彼の死期を早めたのではないかなと、今は思うんだ」