女系論者の誑かし
この言葉は、今回のライジングでの小林よしのりのものである。
思わず、お前が言うかと思ってしまった。
およそネット上の著名人で、小林ほど日本人を分断している人間はいないのではないか?
今般の女系問題でも然りで、とうとう「忠誠か、反逆か」などと言い出した。分断も極まれりである。
なにが「公論」だ。馬脚を現すとはこの事だろう。
ワタクシは以前も書いた通り、彼の「道場」という試みに一定の敬意を持っていたし、第一回には参加する予定であった。
ここで彼らにお詫びしなければならないのだが、その時ワタクシは、参加を許可されながら行かなかった。行けなかったのではなく、行かなかったのだ。
おそらく同伴者がいたから、みなぼんも選んでくれたのか、はたまた当時は全員を通せるくらいの希望者数だったのかは知らないが、その不義理は少なからずワタクシの引け目となっている。
勿論、理由は有った。
募集の時には告知されていなかったのに、ニコニコで生放送するという事になっていたからだ。
そうと知っていれば応募などしなかった。ワタクシは「道場」なら参加したかったのである。
何より同伴者を予定していたから、そちらも嫌がるだろうと配慮した。
尤も、先方はワタクシよりも気にしなかった可能性もけっこう有るのだが、とにかくワタクシが嫌だったのだ。
だが、一通一通手書きで一文を付してくれていたみなぼんには、特に申し訳無い気持ちになった。小林方にも非は有るから仕方無いとは思っているが。
閑話休題。
ワタクシは、彼が公論を興そうと身銭を切ってやっている姿に敬意を持っていたが、ネットに来てから彼が執ってきた実際の言動は、謳われた理想とはかけ離れていた。
そして今や、自分たちと異なる意見を持つ者は「反逆者」だというのだ。
天皇の首を取れ!とか主張しているならともかく、有史1500年をかるく越える伝統を守れと唱える者をである。
もはや女系しか執るべき手段が無い状況ではまったく無いのだが、自分達が一刻も早く女性天皇から女系継承を実現させたいからである。
大体、男系への拘りを「男尊女卑」などという大衆迎合した言葉で工作している事からして、気に食わないというか、おかしいとは思っていた。
そこには、歴代天皇への思いなど微塵も無いどころか、侮蔑しきっているではないか。
なぜ、これまでのご皇族がたは男系継承を重んじてこられたのか、この点について女系固執となってからの小林は勿論、高森明勅も解説した事は無いのではないか。
もう、それだけで皇統侮蔑の振る舞いだろう。
先達がこのような伝統を築いてきた事を「男尊女卑」と一言の下に切り捨てて迷いが無いのだから、そこには保守的な性根など皆無としか思えない。進歩主義の振る舞いである。
一刻も早く自分達の手柄で女性・女系天皇・宮家を実現させたいという思いばかりが先走っている。
今上天皇が皇統の安定的継続に悩んでいらっしゃるのは、ワタクシもそうかもしれないと思う。
そして小林は、男系優先派の言動が天皇のお悩みを多くしていると断罪する。
馬鹿馬鹿しい。
皇子誕生を民衆が待ち望むのは古今東西の人類史で当然の事であるし、王はそのために万難を排して取り組む宿命を持っている。
そして先帝も、凄まじい民衆の皇子生誕の期待に非常に苦悩しながら、見事にお応えあそばした。
その時の民衆の喜びようは、現代の我々の想像を絶するものであったろう。小林の論では、こうした事はみな「男尊女卑」の一言に片付けられてしまう。
平成の世でも、そうした言ってみれば「圧力」が有ったればこそ、悠仁親王の誕生に繋がった事は明らかだろう。
現在の皇室・宮家が王族に課せられた過酷な宿命より優先したものが有ったから、ああまでギリギリの状況になってしまったのであろうし、それは言ってみれば民への裏切りでもある。
非情な言い方だが、そのくらい「王族」の立場というものは苛烈なのだ。
これに感傷的な言葉を投げるのは、見た目も良いし、近視眼的には皇室敬愛みたいに見え易いが、西洋のたかだか二、三百年ほどで培われたに過ぎない視点で、まったく蔑ろにして良いとも言い切れないが、金科玉条のように扱うのも卑屈すぎる。
一方の男系派にも、Y染色体がどうのこうのと、おかしな事を言うのがいるのは、以前から不愉快だった。
皇統を物質的に語ってどうするのだ。
しかも、そこには将来的な展望が無い。
将来、考古学的調査で染色体の観点から皇統の分断が発見されたら、皇室廃止の左翼陣営に強固な論拠を与えてしまう。
どうも保守派と呼ばれる人間の言動には阿呆かと言いたくなるものが多くて、頼むからお前らは黙っててくれと言いたくなる連中ばかりだ。
今上天皇の御心を安らかにして差し上げるための姿勢は、我々は決して皇統を絶やすような事はしませんと確言してさしあげる事だろう。
万万が一、悠仁親王に皇子が誕生しなかったとしても、あらゆる手段を講じて「天皇」の存在はお守りしますという姿勢を確とする事である。
いずれにしても、有史一千五百年をも軽く越えて歴代天皇が守られてきた男系継承をお守りする事が最優先であって、これに異を唱える者は、彼らの言葉そのままに、歴代天皇への反逆者であろう。
まして今や、秋篠宮様の決然としたご覚悟により、それは守られているのだから。
錦の御旗を殊更に振りかざす者というのは、それだけ疚しいのであろう。
幕末の西軍がそうだった。
「官軍」などと言って「錦の御旗」を翳していた連中が、実際にはどの様な言動を取っていたか。
彼らの物言い、そして行動は、およそ天皇の名の下に集まった者とは認められぬもの。
彼らが白虎隊に行った悪逆非道も、彼らのお陰で「天皇」の名の下に行われた事になる。どこが尊皇だ。
しかも孝明天皇その方に対してさえ……。
今の小林一派の言動も、果たして「尊皇」一派に相応しいものかどうか。ま、「生前」なんて言葉をいまだに使っている時点でお里は知れるが。
それにしても、さんざん愚民愚民と民衆の大意を侮蔑していたのに、自分達の主張と合致すると、「国民はわかっている」と諸手を挙げる。
無節操とは、こういう姿勢を言うのだろう。
どう考えても国民が皇統の事などわかっているわけはないだろうが。
勿論ワタクシだってわかっていない事の方がはるかに多いが、それでも高森が不誠実に感じる程に歴代天皇の思いに触れていないのは解る。
なぜ皇統は男系で守られてきたのか。この解説抜きに本質を語る事は出来ないし、本質抜きに民衆を誑かせば良いと考えている者を、ワタクシは断じて認めない。