無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

漫画投句「キャプテン(ちばあきお)その2」

Gさん(仮名)「前々回のキャプテンに続いて、プレイボールの方もやってしまいましょう」

ごいんきょ「まあその前に、もう一度きちんとキャプテンを語ろう。前回は、トンデモな動きに対する不満しか書かなかったから(笑)。

  先ず、週刊少年ジャンプが別冊少年ジャンプというのを出して、そこで人気を呼んだのが、中学野球を描いたキャプテンだったわけ」

 

G「あの頃まで、野球漫画って目茶苦茶だったんですよね」

ご「そう。最初の頃は戯画化されたほのぼの漫画しか無くて、劇画が出てくると、魔球と秘打の化かし合いという、およそ野球からはかけ離れた勝負漫画しか無かった。勿論、それらはそれぞれ面白いんだけれど、野球を描いた面白さではなかったんだ」

 

G「ほのぼの漫画か勝負漫画としてしか存在しなかったと」

ご「まだ漫画自体が黎明期と言える時代だったから、日本人が苦手な、スポーツを楽しむっていう観点で描かれた漫画なんて皆無だったんじゃないか、野球に限らず」

 

G「この『キャプテン』は、そこに一石を投じた感じですかね」

ご「『キャプテン』が発表された昭和47年というのは、わしに言わせれば野球漫画元年なんだ。

  この年、自他共に認める野球狂の水島新司も遂に目覚め、『ドカベン』『野球狂の詩』を発表し始める」

 

G「それぞれ高校野球プロ野球を描いたものですね。荒唐無稽な魔球が話の中心ではありませんでした」

ご「特に『野球狂の詩』はその名の通り、野球が好きで堪らない連中を描いていて、革命的な衝撃を受けたよ」

 

G「どれも、いずれここでも扱うでしょうけどね。で、『キャプテン』は中学野球というのが目新しかったですね」

ご「普通、高校野球を描くと思うんだけれど、舞台を中学とした事が先ず正解だった。当時、全国中学野球大会みたいのは無かったはずだから、完全に虚構の世界で作れたから」

 

G「大人が出て来ませんものね(笑)」

ご「相手側にはきちんと監督先生がいるのに、墨谷二中にはそういう存在が全くいないわけ。だからキャプテンがなんでも考え、なんでも決める。そういうのが子どもには感情移入しやすかったと思うよ」

 

G「『キャプテン』も話が進むと勝負を描くようになりますが、連載当初は特に野球への取り組み、チームの築き方なんかを描いてました」

ご「いやあ、進んでからだってそれは同じだよ。丸井もイガラシも近藤も、みんなチームを一丸とまとめる事に凄く苦労している。大会が始まっちゃうと勝負が話の中心になるけど、根っこの部分は、いつも丹念に描いていた」

 

G「しかも、ちばさんが凄いのは、そういう試合ではない回でもまったく退屈しないんですよね」

ご「水島新司もそうなんだけど、自分が野球を好きで堪らないから、登場人物もみんな野球への情熱が息づいているわけ。だから彼らが描かれれば常に活き活きしていたし、物凄く魅力的だった」

 

G「特に最初の数回は、墨谷二中が強豪となるために非常に大事な描かれ方ですね」

ご「みんな、谷口のしごきに耐えられなくてな。抗議しに行く事になって、平素の谷口を見てしまう」

 

G「俺たちの面倒を見た後に、こんなにっていうね(笑)」

ご「あれで反谷口の急先鋒だった丸井が何も言えなくなって、後に凄まじい谷口信者になってしまったんだな。子供の頃に読んで、あそこは泣けたよ(苦笑)」

 

G「それでみんな、黙って努力するようになって。影響を受けましたか?」

ご「根っこの部分はな。ただ、わしは生来、努力する才能が無かった(苦笑)」

 

G「努力を続けられる才能というのが、一番大事かもしれませんね。谷口にはそれが有ったけど、あなたには微塵も無かったと(苦笑)」

ご「だって、努力しなくても大抵の事はそこそこ出来たからなあ、子供の頃は。それが却って、自分のためにならなかった。人生なんて、正に禍福あざなえる縄の如しよ。

  わしの話なんて暗くなるからどうでもいいよ(苦笑)」

 

G「そうですね(苦笑)。

  キャプテンは谷口の後、その丸井、そしてイガラシ、近藤まで描かれました」

ご「この『キャプテン』人気で、別冊少年ジャンプが正式な月刊少年ジャンプとなったんだ。なにしろ当時は別冊扱いだから、強力な漫画なんて無いわけ。ちばさんだって無名の新人だったし。目玉と言えば、『ど根性ガエル』のテレビ版くらいだったよ」

 

G「テレビ版?」

ご「テレビ版と言っても、かなり前に週刊ジャンプに掲載された内容で、その月にテレビ放送される一話分だけを再掲しただけだけど」

 

G「それが目玉だったんですか(苦笑)」

ご「吉沢先生も、週刊連載の他に月刊でもっていうのはキツイだろう(笑)。で、新作の目玉がキャプテンなんだけど、無名の人だし、絵だってそんなに上手くないし、正直、当初はあまり注目してなかった。月刊ジャンプになってからは、永井豪の『けっこう仮面』とか菊池規子の『わが輩はノラ公』とか出て来て、どんどん面白くなったな」

 

G「そこまで雑誌が成長したのも、ひとえにキャプテンのお陰なんですね」

ご「そうよ。もう月刊誌は軒並み絶滅状態になってたんだからな。そこへ月刊誌を新設するなんて、いくら週刊ジャンプで上げ潮だったとは言え、集英社は無謀だと思われたと思うよ。

  だから、本来は谷口を描いた漫画だったんだろうけど、なかなか辞めさせられなかったんだろうなあ。一度はケリが付いた宿敵・青葉学園と再戦っていう話になって」

 

G「でも、それも決着が付いて、今度こそ谷口を卒業させるしか無くなった」

ご「それで、題名も『キャプテン』なんだから、代々のキャプテンを描いていこうって事になったんだと思うよ。

  で、青葉を再戦で破った後、休載が有ったんだ。次のキャプテンは誰になるかという読者を交えた座談会をしたの」

 

G「へえ。どういう結論だったんでしょう」

ご「それが、その頃はそんな読者座談なんかに興味無いから、内容は殆ど読まなかったのよ(苦笑)。恐らく、丸井では不安だとか、イガラシでいいんじゃないかとか、やっぱり三年の丸井しかいないとか、そういう話だったんだと思うけど」

 

G「結局、丸井が新キャプテンになりましたね」

ご「だけど谷口信者で、二言目には『谷口さんは谷口さんは』って。イガラシが見かねて、今のキャプテンは丸井さんなんですよって言ったら、『だから谷口さんは!』って返したもんだから部員から失笑を買っちゃってな(笑)」

 

G「それで辞めようとするんですよね」

ご「谷口さんを悪く言う奴らを引っ張っていく気は無いとか言って、ロッカーに引き上げてユニフォームを脱ぎ出すの。でも、暫くすると戻ってくるんだ」

 

G「丸井も少しはキャプテンの自覚が出来ていたと」

ご「いや。『谷口さんは物事を途中で投げ出すような事はしなかったからな』と(笑)」

 

G「凄い信奉ぶり(笑)。結局、丸井は高校に入ってからも谷口べったりなんですよね」

ご「最初は谷口のいる墨谷高校に落ちちゃうけどな(笑)。それでも、編入に成功しちゃうんだから一筋縄じゃない」

 

G「丸井は先輩想いでもありますけど、後輩の面倒見も尋常じゃなく凄かったですね」

ご「あの辺がなあ、ちばさんの凄さなんだよ。本当に登場人物の一人一人が、まるで生きている人間のように説得力を持っているんだ。生きてるんだよ、登場人物が。

  丸井は、自分がキャプテンの器じゃないという事を自覚して、次代のためのチーム作りに没頭する。それが結局は、イガラシ時代に活きてくるんだな」

 

G「谷口が辞めた時は次のキャプテンは誰かってなりましたけど、丸井が辞めた時は、もうイガラシで決まりって感じでしたね」

ご「丸井が辞めた時もイガラシが辞めた時も、次のキャプテンは誰かって座談会は有ったんだけど、イガラシの時だけは文句無しって感じで。丸井と近藤の時は、やはり疑問視が有ったよな」

 

G「近藤は、普通に考えたらキャプテンの器じゃないですもんね(苦笑)。ノンプロ経験者の親父を出す事によって、なんとかそれらしくしましたけど、やはりチームは戦える状態には出来なくて」

ご「あくまでも次代を考えてのチーム作りになっていったな。その辺は、やはり器じゃなかった丸井の時と同じだ。

  だから、イガラシだけはスーパーマンなんだけど、他の登場人物は、みんな欠点だらけで悩みながら悪戦苦闘するんだよな」

 

G「しかも、かつての野球漫画もどきのように勝負とか訳の解らない人間関係で悩むんじゃなくて、あくまでもチーム作りで悩むんですね」

ご「うん。団体競技としての野球を初めて描いた漫画が、『キャプテン』であり『プレイボール』なんだ。水島新司ですら、個性の強い登場人物がそれぞれに野球を楽しむ姿を描いただけだったからな。

  『キャプテン』という題名は、伊達じゃないんだよ」