無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

漫画投句「がくらんエレジー(弘兼憲史)」

Gさん(仮名)「漫画家はけっこう有名ですけど、作品はまったく無名ですね」

ごいんきょ「廃刊を目前とした週刊少年キングに連載されていたんでな。それに、単行本化された時に『ガクラン放浪記』とか改題されてしまったし」

 

G「原作が、主人公である稲田耕三氏による『高校放浪記』だからでしょうけどね」 

高校放浪記 (角川文庫)

高校放浪記 (角川文庫)

 

 ご「でも、わざわざ改題するなんて、作品を冒涜しているよ。小説とか映画で、そんなこと有り得るか? 漫画が舐められているからだよ」

 

G「原作は、70年代前半にわりと読まれたんですよね。だから、少しでも売れるようにと、原作題に近づけたんじゃないですか」

ご「だったら題名の横に、”稲田耕三著 高校放浪記より”って付ければいいじゃないか。その方が、はるかに原作が何か伝わるだろうよ」

 

G「内容としては、あの時代の不良少年の青春像って感じですかねえ」

ご「あの時代ならではという感じなんだが、それだけに、今の連中には微塵も伝わらないかもしれんなあ」

 

G「元がキングだし、その中でもかなり地味な漫画だったですけど、不思議に惹き付けられるものが有りましたよねえ」

ご「先ず第一には、弘兼憲史の絵力が有る。

  内容は本当に地味で、たまに喧嘩なんか有ると少し派手になるけど、それ以外は地味な不良少年の日常なんだよな。でもグイグイ惹き付けられたのは、やはり絵の力だよ」

 

G「原作の方は文章の力とか内容なんでしょうけど、どうしたって漫画は先ず絵ですね」

ご「弘兼はその後も暫く鳴かず飛ばずだったが(笑)、いつの間にか大家になっていたなあ」

 

G「やはり島耕作が大きいですかね」

ご「ケッ」

 

G「態度悪いなあ(苦笑)。その前の”人間交差点”あたりからでしょうか」

ご「ま、そこいらなら妥協してやるよ(笑)。でも、”がくらんエレジー”の味にはまったく及ばないけど。

  ホント、あの頃のキングは内容の充実度は物凄かったのにな。良い物ほど、大人気とはならずに消えていくんだよな。世の大多数は馬鹿で構成されているから仕方無いんだけど」

 

G「そんなにワタクシを貶めないで下さいよ(苦笑)。も~う、応対するのが大変(苦笑)」

ご「わしは彼と、かわぐちかいじの絵に注目していたんだよ。かわぐちかいじは”ハード&ルーズ”とか好きだったんだけど、これも原作者が付いてた」

 

G「どちらも原作をも凌駕する程の絵の魅力で惹き付けていて、その後に独自の物語で天下を取る作家となりましたね」

ご「絵が描けるという事は客観性が有るって事だから。良い絵が描ける人っていうのは、文才だって有るんだよ」

 

G「正しいかどうかは知りませんが、面白い理屈ですね」

ご「ああ。わしも正しいかどうかはわからん。いま思いついた事だし」

 

G(………)

 「この漫画は、どの辺が面白かったですか」

ご「言葉にするのは難しいなあ。弘兼ワールドとしか言い様が無いんだけど。

  一応、内容を説明すると、出来の良い兄を持つ高校生の稲田耕三は、喧嘩が強いために少しずつ道を外れていって、教師や父親との対立が深まる。

  思春期の男子が辿る道なんだけど、ちょっと激情家というか、そのために極端な行動をとったりしてしまうんだな」

 

G「たしか転校しますよね」

ご「うん。暴れが過ぎたんだっけな。よく覚えてないけど。

  それで暫くは北大を目指して、勉強にも向き始めるんだけどね」

 

G「兄さんも成績優秀でしたし、耕三氏も勉強が出来ないってわけじゃないんですよね」

ご「だけど喧嘩が強いから悪い仲間が出来やすいし、番長との対決にも駆り出されてしまったり。

  あと、この時代の不良は女の子にモテる(笑)」

 

G「また、弘兼さんの描く女の子が魅力的だったですよね」

ご「凄く地味な顔なんだけど(笑)、凄く可愛いというね。なんか庶民的というか、ああいう絵は弘兼憲史ならではだよなあ」

 

G「雑誌連載当時の70年代末期あたりまでは、こういう世界観も通じていたんでしょうか」

ご「う~ん… 少年キング以外の少年誌だったら、絶対に連載になってないだろうなあ(笑)。あの当時でも、ちょっと古い感じはした。

  わしは昭和30年代の世相とか好きだから、物凄く好きだったけど、一般的には連載当時に読んでいた人間は限られるんじゃないか」

 

G「まして現在では、この世界がわかる若い奴って期待できなそうですね」

ご「教師を悪い意味で舐めてる奴はいるだろうけど、”敵視”している中高生って今でもいるのかな? 親父に対してもそうだけど。

  そういう青春時代を送った層とか、身近に感じた層にしか興味を持たれないだろうねえ。しかし、自分にとっての名作というのは、得てしてそういうものの中から見出せたりするんだよな。

  わしにとっても、この漫画はずっと忘れられない存在感を放ち続けているよ。何十年も。これからも、ずっと」

 

G「でも島耕作は?」

ご「ケッ!」

 

G「態度わる~(笑)」