漫画投句「ブラックジャック(手塚治虫)」
ごいんきょ「先日、元手塚番記者三名が集まったトークショーに行って来たんだが」
Gさん(仮名)「トークショー目当てなんだか、後の飲み会目当てなんだか(苦笑)」
ご「いやいや(苦笑)。
しかし偶然というのは恐ろしいもんで、今、色々と部屋の整理をしているのだが、そうしたら出て来たのよ。奥深く仕舞っていたチャンピオンコミックスのブラックジャックが」
G「ほぉ~。そういうのって、ついつい全部読み返しちゃいますよね(笑)」
ご「そうなんだよ。それで片付けの手が止まって、捗らない捗らない(苦笑)」
G「チャンピオンコミックスの『ブラックジャック』って、最初の頃は”恐怖コミックス”って括りなんですよね。本当は腕利き無免許医、但し手術料はべらぼうに高いという医者が主人公の、人間劇なんですけど」
ご「ああ。恐らく、手術描写とかを抜き出して、わりと売れ易いような文句を考えた結果なんだろうけど。同じ秋田書店のサンデーコミックスでは、楳図かずおの『怪』とかの怪奇漫画がけっこう売れたみたいだからな」
G「手塚先生の漫画なら、黙っていてもそこそこ売れるでしょう」
ご「いや。それが、ブラックジャックを始めた頃は落ち目だったのよ。その辺の事は上記レポートで書いたけど」
G「崖っぷちだったからこそ、今まで出さなかった最後の引き出し、医学博士としての知識を漫画にしたんでしょうね」
ご「そうだろうな。そして、それが見事に図に当たったな。わしも毎週のように涙しながら読んだもんだ。よく読み切り連載であんなに長く続けられたと、それだけでも驚嘆するよ。
上のトークショーに出演した一人の橋本一郎氏が、手塚の漫画には自身の境遇が反映されていたりすると『どろろ』などを例に解説していたけれど、正に『ブラックジャック』にもそういう描写が有ったな」
G「どの辺ですかね」
ご「ブラックジャックは大金をせしめて手術するけれど、その金をどうしているかという話が有ったろ」
G「はいはい。たしか島を買っていたかと」
ご「島を買って、その島の自然を保護しているみたいな話だったよな。つまり、ただ大金を掻き集めているのではなくて、それを理想のために使っているという感じ。
これって、手塚自身もそうだったろ」
G「確かに、稼ぎまくってましたよねえ、手塚さん(笑)。仕事を断らないって言われたくらい、最盛期には全誌に書いてたんじゃないですか」
ご「それで大宅壮一が、華僑ならぬ”阪僑”と、半ば蔑称として呼んだんだよ。関西から来て関東で稼ぎまくっていると」
G「なんで、あんなに描きまくってたんでしょうね」
ご「という質問が、上のトークショーの質問コーナーで出てたんだ。で、三人の編集の方々は、口を揃えて、とにかく描きたかったんだと。描きたい事がいっぱい有ったんだと回答してたけど。
それも絶対に間違いではないけれど、あと、アニメーション資金を作るという、非常に大きな目的が有ったと思うのね」
G「ああ、なるほど」
ご「手塚は、とにかく最初からアニメーションを作りたかったし、漫画家と言われるよりアニメーターと呼ばれたがったなんて話をするアニメ編集者もいる。とにかくアニメーションに関する思いは半端ではなかったよな」
G「日本初のテレビアニメ『鉄腕アトム』は、他社が参入できないようにわざと制作費を安く売り込んで、足りない分は彼の漫画の稼ぎで補っていたといいますね」
ご「そうそう。足りない分は私の原稿料で出しますから大丈夫って感じで。実際、そういう事も多々あったろうし。
つまり、大宅壮一らから”阪僑”だなんだと半ば軽蔑されながら稼ぎまくったお金で、自身の理想、夢であるアニメーションの世界を作っていたわけだよな」
G「なるほど。ブラックジャックも、強欲医者みたいによく貶されてますよね、作中で」
ご「あれって、間違い無く、”阪僑”って揶揄されていた自身を投影させていると思う。そして、ブラックジャックにも金を稼ぐ理由が有って、彼の理想、夢の世界を保持するために使っていたというね」