無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

朝日ソノラマはなぜ鉄腕アトム主題歌を独占できたのか(47)

いじわるばあさん

 長谷川町子原作の四コマ漫画をアニメ化したものですが、原作にはいない 駄犬ペケという犬が、結構な活躍をしていました。

 これは、『もーれつア太郎』でニャロメ猫がウケていたのに対抗しようとしたものですが、ペケは喋る事は出来ません。しかし、人語は解し、ばあさんの子分格である立夫が、ペケの意思を通訳して伝えます。

 ばあさん役は、昭和40年から放送していた実写版の『意地悪ばあさん』で、青島幸男古今亭志ん馬に続いて婆さんを演じた高松シゲオが、この漫画でも声を演じました。

 提供は森永製菓とノーシンで、やはり製菓会社単独での提供とはならず、この番組企画も、大人も対象にしていた事が伺えます。

 

 開始主題歌の「いじわるの唄」は、実写版主題歌を編曲して、子供に歌わせていた気がします。

 ばあさんがホウキに乗って地球を一周していたような絵を覚えていますが、なにしろ本放送で見たきりなので、あまりよく覚えていません。

 再放送もあまり無かった上に、長谷川町子関連は版権が厳しいため、このCS・DVD時代でも放映やソフト化が滅多にされないので、ほぼ本放送時の記憶で語るしか無い現状です。

 

 終了主題歌の「さすらいのいじわるゲリラ」は、サトー・ベベという正体不明の男児が歌うもので、こちらはフィリップスレコードから音盤化されています。

 おそらく開始主題歌も、このサトー・ベベの歌唱だったのでしょう。

 前年の昭和44年末から、皆川おさむの歌う「黒ネコのタンゴ」(フィリップスレコード)が200万枚級の大当たりをしたため、45年には児童歌唱の歌が、印象として急増しました。

 それまでビクターと提携していたフィリップスレコードは、この大当たりを受けて45年8月に日本フォノグラムとして独立し、10月放送開始のこの番組の主題歌を、児童歌唱で発売したのでした。

 

 そもそも長谷川町子作品は、作者が商品化を非常に避けていたので、音盤と言えどもあちらこちらが許諾を得られるというものではありませんでした。

 それまで読売テレビ制作のテレビまんがは、音盤を出したい会社に等しく許諾していた流れでしたが(黄金バット巨人の星タイガーマスク等々)、この番組の終了主題歌はフィリップスレコードの独占となっています。

 なぜ、子供番組主題歌と縁もゆかりも無かったフィリップスが、いきなり音盤化権を獲得できたのかは、大いなる謎です。

 

 

いなかっぺ大将

 東北の純朴な小学生が、柔道の志を抱いて亡き父の友人の柔道家の家に世話になるため上京してくるという設定で、雑誌連載の初期では熱血柔道漫画の部類でした。

 『巨人の星』人気を当て込んだ川崎のぼるへの依頼だったのでしょうが、連載の長期化と共にスポ根人気が落ち着いたためか、ズッコケギャグ路線へと変貌し、テレビ版はそちらの趣で作られました。

 独自企画が特色だったタツノコプロが、初めて挑んだ原作ものでもあります。

 

 音盤としては、コロムビアが完全独占を果たしました。先の『いじわるばあさん』といい、ついにこの年の秋頃から、テレビまんが音盤を主導してきた朝日ソノラマが、音盤化にすら漕ぎ着けないという番組が頻出し始める事となります。

 その最たる要因は、なんと言ってもステレオの普及でしょう。これにより、ソノシートの音質の悪さが歴然としてしまったのです。

 ステレオの普及は、当然レコード盤というソフトの普及も促し、かつては10万枚も売れればレコード大賞候補になったものが、この頃にはヒット曲と呼ばれるものは数十万枚規模となっていました。

 ソノシートのレコード盤への優位性は、ここに於いて完全に瓦解していたのです。

 それでも、ソノラマには黎明期に世話になったという事でしょう、うちはソノラマだけで充分という会社もずっと有ったわけですが、事が商売ですから、ソノシートの売り上げが鈍化するに従い、そうした意識だけでは、勢いを得てきたレコード勢、分けてもコロムビアの進撃は止められませんでした。

 

 特にタツノコプロは、『みなしごハッチ』での大成功を経て、コロムビアとの関係が強固なものとなりました。

 『ハッチ』ではLPも売れたとみえて、続くこの『いなかっぺ大将』でもLP盤が製作され、いよいよテレビまんが音盤でもLPが普通に出される時代となっていく事となります。

 コロムビアによる、タツノコプロのまんが主題歌で『ちびっこのどじまん』出身者を育てる路線は継続しており、この番組では吉田よしみが歌いました。

 この吉田よしみが、現在の天童よしみであることは、今ではかなり有名な話です。

 

 

のらくろ

 明治百年にあたる昭和42年に、講談社が出版した「のらくろ漫画全集」が大当たりした事がテレビ化の背景に有ります。

 それは昭和44年までで70万部にも達し、加えて、この昭和45年は戌年でもありました。

 但し、原作で軍隊・戦争を描いていた点は、時節柄なるべく軽く扱われる方向となり、そのための措置として、ミコという原作にはいない看護婦犬を出して、のらくろの憧れの対象とさせました。

 また、『みなしごハッチ』の大当たりを受けて、母恋ものの要素も入れ、のらくろが母親を恋しがる場面などが流されました。

 この時期、母恋ものは子供番組に次から次へと溢れてきます。

 

 音盤は、キングレコードから出されました。『のらくろ』が講談社の作品である以上、それは当然の事です。

 キングレコードとは、元々が講談社の音楽部門でありました。

 他に、キングとは関係の良好だった朝日ソノラマが、二種類のシートを出しています。

 正副両主題歌の他に、のらくろが母を想う場面で流れる『どこからぼくは』という印象的な挿入歌が流れましたが、これはキング盤のみに収録されています。

 つまりキングから出されたEP盤は、三曲収録のものでした。

 

 

魔法のマコちゃん

 人魚姫に題材を取ったもので、人間の男性に憧れた人魚が、人間の姿になって探しに来るというものでした。

 『魔法使いサリー』『ひみつのアッコちゃん』に続く、NET・東映動画による魔女もの路線で、胸のペンダントにマコの涙が光ると魔法が使えるという内容でした。

 同路線が数年続いている事を考慮して、対象年齢を少し引き上げ、マコの外観を中学生っぽくしたり、お色気や恋愛要素も取り入れています。

 

 音盤としては、正副主題歌を収録した盤が、コロムビアから出されました。

 コロムビアが子供番組歌手として育てようと白羽の矢を立てた堀江美都子が、初めて出身のようなフジテレビ以外の番組で主題歌を受け持ちました。

 この辺から、コロムビアとNET(テレビ朝日)の関係も、非常に強力なものとなっていきます。

 

 元々、東映動画は『狼少年ケン』以来、音盤展開はソノラマを中心としており、『魔法使いサリー』の頃は、コロムビアはその壁に阻まれて、ダイヤモンド・シスターズによるカバー歌手盤しか出せませんでした。

 それでもコロムビアの木村英俊は、レコード化を許されただけでありがたかったと回想しています。*1

  それからわずか5年でシートとレコードの関係は逆転し、コロムビアが主導権を握るようになったのでした。

 とは言え、ソノラマのそれまでの繋がりが有るのでシート化は出来て、クリスマス企画を含めて都合3冊の盤を出しています。

 

 

 

*1:タツノコプロ・インサイダーズ」原口正宏・長尾けんじ・赤星政尚(講談社