無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

昭和唱和ショー「豆腐売り」

 パー プー という些か哀愁が有るというか間が抜けた感じというか、そういうラッパの音が響くのが、昭和40年代頃までの日本の夕方風景だった。

 あの音が鳴ると子供達は帰りを意識し、人は夜の訪れを予感する。生活の句読点のような音だったと思う。

 町の豆腐屋さんが、自転車で豆腐を売り歩いていたのだ。

 その音が聞こえると、奥さん連中が鍋を持って駆けつける。そして鍋の中に豆腐を入れてもらい、銘々の家へ持って帰るのだ。お使いを頼まれた子供が並ぶ場合も有った。

 だが、子供が持って帰ると大抵の場合は崩れてしまう。

 ただでさえ子供はぞんざいに扱うし、四角い豆腐を丸い鍋に入れるわけだから、ちょっと位置がずれると角がぶつかってしまうからだ。

 冒頭のパープーという音は、「♪ 豆腐~」としか聞こえなかったし、実際にそのように吹いていたのだろう。 

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 カナダから日本へ来て14年になる神父さんの見聞記だが、この昭和45年にして、「この典型的な日本の風景が年々見られなくなっていると聞きます。さびしいですね」と書かれている。

 たしかにワタクシ自身の記憶でも、正に昭和45年頃までは南東京でも見かけていたものだ。

 同時期のテレビまんが『ひみつのアッコちゃん』では、副主題歌に納豆売りが出て来ていたが、それは見た記憶が無い。

 なぜ豆腐売りが無くなったのかと言えば、恐らく、その頃からスーパーマーケットが台頭してきたからだろう。

 

 だが田舎の方ではそうでもなかったようで、ワタクシは平成になってから北関東に住むようになったが、勤務先の昼休みに豆腐屋が来ていたのだ。

 来れば大抵、皆が買っていた。毎日の弁当に飽き飽きしていたから、新鮮な豆腐は非常に魅力的だったからだ。

 しかし、勤めている人間が入れ替わっているうちに買わない人間も増えてきて、そのうちに来なくなってしまった。

 あの豆腐屋さんは、今も売り歩いているのだろうか。

*1:昭和45年8月7日付読売新聞