無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

朗報 『大市民』復活の兆し

Gさん(仮名)「うん? 『大市民』復活の話は、もう書きましたよね」 

ごいんきょ「ああ、あれって11月の話か。早いなあ。今回はもう28回目になるのだから、半年は過ぎてるって事だもんな。

  いやいや、”復活”というのは他でもない、内容の話だよ」

 

G「内容? 今までだって面白かったですよね?」

ご「ふん。わしらが本当に面白かったと思っている『大市民』はな、ブタエモン登場前なんだよ」

 

G「大丈夫なんですか、ブタエモンなんて言って(苦笑)」

ご「作中に書いてあるんだから仕方無い(笑)。そんな具合に、元々が世相を斬るって漫画ではあったのだが、恐らく加齢による劣化だと思うのだが、段々と表現が汚くなってな。それまでの、大人の男の嗜みを描いていた『大市民』から離れていってしまったんだ」

 

G「今回の『大市民挽歌』では、それかあらずか、あまり世相の事は描かないってしてますね」

ご「いやあ、それが無くなったら『大市民』じゃなくて、ただの老人日記だよ。確かに年齢相応の、老いの心境を描くというのも大事だとは思うのだが、毎度万度それではねえ。

  種子から外界に出た植物の芽がひたすら光を求めて伸びていくように、生物は、そして人間も、例え微かなものでも常に希望を見続けながら生きているものなんだ。死だけに視線を向けていても栓の無い事でな」

 

G「今回は寿司の話でしたね」

ご「超々一流の寿司屋を食べ歩いて、武士道ならぬ寿司道を極めた彼だからな。寿司とビールを語らせたら天下一品」

 

G「寿司屋の客についても語ってましたね」

ご「そこいらが以前の味が戻ったなってとこでさ。

  わしだって、彼のような超々一流はおろか、二流寿司屋だって行ったこと無い、田舎の寿司屋の暖簾しか潜ったことの無い男だけどさ。本当に通ぶった奴がいるとウンザリするもの」

 

G「いますよねー。寿司屋に限りませんね」

ご「そう、バーでもいるな。やはり店主と向き合うようなとこには居るんだろう。わしは詳しくないが、ラーメン屋でもいるんじゃないか」

 

G「作中で山形氏も言っているように、素晴らしい店になるほど客の質は反比例しますかね」

ご「わしは彼ほどの経験は無いけれど、凄くわかる気はする。

  わしも、(ああ、ここ食べ易くて良いな、これからも来よう)と思った寿司屋だったから上機嫌で飲み食いしてたら、脇にいた常連らしき奴が、『マスター、俺がここは流行るって言ってた通りになったろ』みたいに得意がりだしてさ。行く気無くなっちゃったよ(笑)」

 

G「はは。自分はもっと前からここのマスターと昵懇なんだよってマウンティングですかね(笑)」

ご「なんか知らないけど、寿司屋の常連って、なんでああも常連面したがるのかな。客が多い店だと必ずってくらい、そんなのがいるぞ。

  わしの理想の常連ってのはさ、新規の客が居たら、むしろ控えめにしないと。そういう時は空気のように壁に溶け込むくらいでないと。今日の主人は新参さんにお預けだって度量が無いとね。

  そうして、新規の客にまた来る気にさせて、互いに何度か顔を見るようになったら、羽を伸ばすのも構わないけどさ。

  これって飲食店に限らず、どんな集団でも心得るべき先達の姿勢だと思うよ」

 

G「やはり寿司屋ってお金かかりますし、そういうとこの常連って事は、自然といろんな力を誇示できますからね。それでなんでしょうね。バーでも同じでしょう」

ご「だからラーメン屋では少ないのかな、そういう奴(笑)。

  あと、寿司の食べ方ね。これも以前にも描いてたけど」

 

G「味の薄いものから食べるって事ですね」

ご「そう。先ずは白身の魚」

 

G「キングクリップですか」

ご「冷凍食品じゃねーんだよ!(苦笑)

  ヒラメ、カレイ、まあイカとかタコなんかもここでいいだろう。

  そんで光り物だな」

 

G「ドスではなくね(笑)」

ご「古いんだよ。

  文字通り、肌が光って見えるような魚で、白身魚で光り物ってのも有る。アジ、コハダなんてものだな。

  そんで赤身だ」

 

G「マグロですね。サーモンはどうですか」

ご「回転寿司の寿司種を聞くなよ。そう言やエンガワなんて寿司種は無いからな(笑)。カンパチとかも、わしは赤身として認識してるけどね。

  そんで、ようやくトロに行けるわけよ。女、子供じゃねーんだから、大の男がいきなりトロを口に放るなっての」

 

G「そういう事を書くと噛み付く人いますよ。少し前の焼き鳥騒動を知りませんか」

ご「あれだろ。美味しく食べるために串から抜いて食べないでくれって言って、客の自由にさせろって叩かれた」

 

G「ええ。実際、そんなに味が変わるんですかね」

ご「それは、味覚だって人より劣っているって人もいるだろうし、もちろん好みだってあるし、千差万別だよ。それはそうだよ。

  だがなあ。作っている人間が、こうやって食べると美味しく食べられますよと教えてくれたら、ああそうなんですかと言われた通りに食えばいいじゃない。少なくとも、そういう風に味わって欲しくて一生懸命に作ってるわけなんだから。

  どうしても串から抜いて食べたきゃヨーカドーで買ってテメエんちでチンして食ってりゃいいんだよ。味はどうでもいいんだろうから。教えてもらって、文句を言うってのがわしにはわからん」

 

G「情報の伝え方の問題も有るんでしょうけどねえ」

ご「いやあ。それよりも、なんか客は偉いんだという恐るべき勘違い人間が日本には増殖しすぎてるんだよ。

  ただ座って待ってるだけの奴が、朝から仕込んで暑い厨房で一所懸命に相手を思って作業している人間より偉い訳がないだろう! そんな当たり前のことがわからない奴が増えすぎだよ」

 

G「それはあくまでも、一生懸命にやっている店の場合ですよね(笑)」

ご「ああ、そうそう。適当にやっている店は適当に扱われても仕方無いけど(笑)。

  だから、そういう事を見る”目”というのを意識して生きたいね。若いうちは難しいだろうけど、わしらのような中年より行ってる人間でそれが出来ないのは、人間として出来損ないだな」

 

G「正に『大市民』って、そういう目線で描かれた漫画でしたよね」

ご「ああ。過去形になってしまっているが、今週を見ると、復活の兆しは有るよ。久々に単行本で買いたい作品が増えるかも。

  ま、なんにしても、バーと寿司屋に独りで入って嗜めたら、大人の男として一丁前だ。20代ではまず無理だし、30代でも余程の達人じゃないと難しいだろう。男は40過ぎてからが本番だな。

  旧『大市民』は、そんな志の有る男には格好の一書だったよ。『挽歌』の今後に期待したいね」