昭和唱和ショー「糠床」
Gさん(仮名)「今の人には読めないでしょうねえ、記事題」
ごいんきょ「”ぬかどこ”だな」
G「そもそも糠ってなんですかね」
ご「そこからだよなあ。もう若者だと、田舎の人間でも知らないかも。
簡単にわかりやすく言うと、米の皮だな」
G「ん? 米の皮?」
ご「先ず、米は籾殻に包まれてるよな」
G「ああ、ああ。はい」
ご「籾殻を剥いた状態が玄米よ」
G「はいはい。健康に良さそうな」
ご「でも、味はやはり白米の方が洗練されてるだろ。だから精白という行程を経て、玄米を白米にするわけ。田舎の道々に、たまに精米器が有るんだけど。あれって米を精白する機械ね。あれで玄米から米の皮を取ったものが白米」
G「すると、米の外側には籾殻が有って、殻を剥くと中の米の周りに皮が有ると」
ご「ピーナツでもそうじゃない。米に限らず穀類ってそういうもので、その本体の周りから削ぎ落とされた皮が糠だ。米から取れれば米糠」
G「精米器にかけると白米が出てくるんでしょ。皮の部分はどうなってるんですか、あれ」
ご「糠としてどこかに保管されるようになっているはずだよ。場所、機械によっては米糠として無償配布もしてる場合が有るし」
G「そんなカスみたいなもの配布して貰い手が居るんですか」
ご「田舎では、まだ自宅で漬け物をやっている人もいるんだろうなあ。うちの親父も田舎者だったから、漬け物が好きでな。自分で糠床を作って色んな物を漬けてたよ」
G「今じゃ日本人も漬け物というと殆どキムチですけど、糠漬けでキュウリとか人参とかを食べるのが多かったですね、昭和時代は」
ご「今じゃせいぜい浅漬けだもんな。それも浅漬けの素を使って(笑)。昔はその家その家で糠床が有ったから、漬け物は家庭の味だったな」
G「臭いんですよね、糠とか糠漬けって(苦笑)」
ご「ああ。だから昔は音痴が歌うと、その臭い糠が更に臭くなると揶揄して”ぬかみそが腐る”なんて言ってたもんだが」
G「”ぬかみそが腐る”というのも、かなり懐かしい表現になってますね(苦笑)」
ご「若い奴はもう言わないだろ(笑)。糠味噌も下手したら知らないくらいだろうからな。
あと”糟糠の妻”なんてのも有るが、これはたまに使われるな。特に政治家の奥さんとかに”糟糠の妻”という言葉がよく使われるけど」
G「”糟糠”というのは米かすと米糠のことですね」
ご「ああ。米の本体ではないものだから、貧しい食生活を象徴した言葉。”糟糠の妻”というのは、そういう若い貧しい時からの夫婦って事で、長く言うと”糟糠の妻は堂より下さず”。貧しい時から苦楽を共にした女房を追い出したりはしないって事だな」
G「それだけ日本人にとって米や糠が身近だったわけですよねえ」
ご「今じゃ糠床ある家なんかかなり減ったろうし、そりゃ”糠味噌が腐る”なんて言葉も無くなるよな」
*1:昭和45年3月26日付読売新聞