無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

挿しす世相史「『金色夜叉』のお宮さん失踪」

 昭和23年8月21日(土)、尾崎紅葉作『金色夜叉』のヒロイン、貫一・お宮で有名なお宮のモデルとされる女性が家出して行方不明だとして、家人から捜査依頼が警視庁に出されました。

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 夫人は、元貴族院議員の大橋新太郎未亡人の須磨(72)と報じられました。

 金色夜叉と、これら実在の人物の実像につきましては各自検索で調べて戴くこととしまして、年老いてから本当に、ダイヤモンドに目が眩みといった情況が報じられているのが因縁的です。

 生さぬ仲の子を含め、三人の子供たちに宝石類などの財産を巻き上げられて無一文だと書き置きを残しての失踪だったようですが、年齢的にも老人の症状だった可能性も有り、その詳細は不明です。ただ、あわや裁判というところまでは行っていたらしいですが。

 

 五女であり、須磨の実子としては長姉となる娘が残した言葉としては、母のダイヤモンドを売って生活費に充てていた事は事実だが、全部でどれくらい有ったかは覚えていない、失踪は誰かの書いた筋書きだと思うとしておりました。

 そのように、世間を騒がして同情を引き、自分に有利に物事を運ぼうとする狂言という見方も有り、今であれば結構なワイドショーネタとなっていたでしょう。

 とにかく、お宮さんがダイヤモンドや宝石類に囲まれた生活だったのは間違い無いようです。

 

 そのように騒がれるのを怖れていたのを、失踪5日目になって仕方なく届け出たのですが、8月23日になって、音羽護国寺で発見されました。

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 失踪時の報道で、年齢は72だが50代にしか見えないとされた美貌は、確かに写真でも窺い知れます。更に大きく載せられた若き日の写真には、左手に二つのダイヤが嵌められていると有ります。

 

 この騒動で「お宮のダイヤ」が再び世に脚光を浴びたわけですが、熱い視線を注いでいたのはご婦人方だけではありませんでした。

 なんと、実在すれば時価一千万と目される数のダイヤの相続問題だけに、財務当局も虎視眈々と報じられたのでした。今の価値ですと、数億円という感じでしょうか。

 そんなお宮さんは、この騒動の翌年、わずか半年後に亡くなったのでした。

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*1:昭和23年8月22日付読売新聞

*2:昭和23年8月24日付読売新聞

*3:昭和24年1月27日付読売新聞