昭和唱和ショー「乞食」
またしてもの対談形式
Gさん(仮名)「なんなんですか、これは!?」
ごいんきょ「今回から、”昭和唱和ショー”も対談形式でやる事にしたのだよ」
G「……… 対談形式って……… 一人でやってんじゃないですか。馬鹿にしか見えませんよ。それに淋しい…… 対談相手いないんですか!?」
ご「いないんだな、それが。昔から、わしに気の利いた返しの出来る人間なんぞ周りにいたためしは無いのだ。まあ、わしの眼鏡に適う人物と言ったら、上岡龍太郎か高田文夫、明石家さんまくらいしかおらんがな」
G(駄目だ、話を広げたら……)
「し、しかし、昭和唱和ショーまで対談形式でやってしまうという事は、他の曜日も全部そうなっていくのでは…」
ご「んー。”博士話”は、確かに対談形式の方がやり易いな。検討課題だ。”漫画投句”は…、やはり対談形式の方がやり易いな。
わしって、ひょっとしたら物凄い発明をしたのではなかろうか」
G(広げない広げない……)
「ほ、他の曜日はどうでしょう」
ご「”不理意投句”は自由書式が売りだからな。しかし、時事問題を語る時とか、やはり対談形式で出来るな。むぅ。本当に、対談形式ブログに模様替えしてしまった方が良いか。
だが、昭和テレビ特別寄稿は駄目だな。あれは、まとめて電子書籍として清書するという目標が有るからな」
G「という事は、”昭和テレビ特別寄稿”以外は対談形式になる可能性が有るという事ですか。あなたはいいですよね、言いたい事を言えばいいんだから」
ご「そうそう。わしが言いたい事を言っても、わしの分身である君が、きちんと抑えの言葉を書いてくれるからやり易いのだよ」
G「清書する側は書く事が倍になってキツイんですがね!」
ご「そのキツさと、書き易さと天秤に掛ければ、きっと対談形式の方が下がるよ。駄目だったら素知らぬ顔して元に戻せば良い。どうせ10人と読んではおらんのだからな」
G「はぁ~(嘆息)。ま、いけるとこまで行きますか。確かに誰も読んでいない気楽さは有りますからね。
傷痍軍人
で、今日はいきなり”乞食”ですか。なかなかネットならではの話題ですね。この漢字、今の子は読めるんですかね」
ご「まあ無理だな。前に三十代の同僚に聞いたら、”こじき”を知らなかったからな」
G「でしょうねえ。いつ頃までいたんでしょうか」
ご「本宮ひろ志の『男一匹ガキ大将』という漫画に、カスミの御大将という日本中の乞食の大親分が出てくる。大体、昭和45年頃までは、そういう描写が有り得たのだ。わしの記憶でも、昭和45年頃までだな」
G「あなたが見た乞食はどんな感じだったんですか」
ご「傷痍軍人さんだよ。乞食にも、漫画で良く出て来たような職業乞食もいれば、傷痍軍人さんもいた。職業乞食は、永井豪の『オモライくん』なんて漫画に描かれた感じだな」
G「乞食が主人公の漫画が有ったんですもんねえ」
ご「そういう、むしろを着ていたり、せいぜいオンボロな服を着て正座していたのが職業乞食だ。職業乞食というのは、わしがいま作った言葉だがな。
傷痍軍人さんというのは、軍服を着ていたのだ。そして、身体の一部が欠損している。わしが見た人は、片足が脛から無かった。足の断面が見えてな。こういう言葉はどうかとも思うが、子供心の印象としては、グロいという感覚だったな。グロという言葉は知らないが」
G「そういう人が軍服を着て座ってるんじゃ、ちょっと怖いですよね」
ご「まして、薄暗い地下道なんだよ。で、一言も喋らずに傍らに金を入れる空き缶だけ置いて、俯いて足を伸ばして座っているだけなんだ。ちょっと怖かったよ」
G「きっと、同情を引くためにわざと傷を露骨に見せていたんでしょうね。我々が子供の頃は、そういう痛ましい人が街中にいたんですよね。お金を入れてもお礼を言わないんでしょうか」
ご「そこは見なかったが、愛想良くお礼を言う感じでは無かったな。
職業乞食
職業乞食の方は、わしも現実には見た事は無いが、わしの子供の頃はテレビや漫画の中では普通に表現されていたな」
G「右や左の旦那様ってやつですよね」
ご「それそれ! ずっと後年になって、今の職場に来た時に元乞食がいたんだよ」
G「凄い職場ですね。伊達に底辺労働やってませんね」
ご「正確に言うと、その男の父親が乞食で、その男は子供の頃に親父に付いていたんだな。大きくなってからは、きちんと今の職場に勤めたわけだから」
G「親父さんが子供もダシに使って物乞いしてたんですね…」
ご「だろうな。それを聞いて、わしは彼に尋ねてみたんだよ。右や左の旦那様って、本当に言ってたのか」
G「うわー。生の乞食経験者にインタビューですか。なかなか出来ないですね(笑)」
ご「そしたら、言ってたって言うんだよ。もう、興奮しちゃってね。ちょっと実際にやってみてくれってお願いしたんだよ」
G「どんな感じでした」
ご「右や~左の~旦那~様っ どうか~恵んで~下さい~ませっ
ってさ、決して腹から声を出さず、しかし聞き取れるように言うんだな。歌に近い抑揚が有ってさ。あれは歴史の現場を見た嬉しさが有ったな」
乞食の伝説
G「そう言えば、乞食って本当は金持ちだって噂が有りませんでしたか」
ご「言ってたねえ。でも、その男は代々貧しいがな」
G「やはり、あれはデマというか都市伝説の類だったんでしょうか」
ご「いやいや、それが、そうでも無いんだ。これを見たまえ」
G「都の民政局長さんが乞食の爺さんと話してるんですね」
ご「その隣にイザリの五十五歳がいて、家と土地、それに32歳の若妻まで持っていると書いてあるんだよ」
G「本当なんですかねえ」
ご「3年前まで一日4、5千円稼いでたって言うんだぞ。昭和27年の3年前だから昭和24年の5千円だぞ。家も建つだろうよ」
G「なるほどー。きっと、この記事の衝撃がずっと言い伝えられて、我々が子供の頃まで伝説となって生きてたんですね」
ご「きっと、そういう事なんだろうな」
そして絶滅
G「そんなに儲かるのに、なんでいなくなってしまったんですかね」
ご「その記事でも民政局長さんは追い出しにかかってるんだけど、そもそも乞食ってのは法律違反なんだよ。軽犯罪法第一条22に、こじきをし、又はこじきをさせた者を拘留又は科料に処するとしているんだ」
G「こじきが犯罪っていうのも凄いですね。名指しで犯罪者扱いって、暴力団なみですね」
ご「だから、戦後すぐから犯罪ではあったんだけど、昭和45年の大阪万博の時に、外国からのお客様に対してみっともないって事で、本格的に運用されたんだ」
G「東京五輪の時はどうだったんでしょう」
ご「それは覚えてないが、あの頃はまだ貧しい人も多くて、乞食同然の家庭なんか幾らでも有ったからな。だから乞食が絶滅したのは、昭和45年だよ。カスミの御大将も、その頃から物語の後半になると出なくなってしまう」
G「今でもネット乞食とかって、言葉だけは残ってるみたいですけど。それに、ホームレスという人はいますよね」
ご「ホームレスと乞食は違うな。乞食は職業だから。金を貰うから。一番違うのは、きちんとお礼を言う事だ。お金を空き缶に入れて貰ったら、おありがとうござ~いとお礼を言いながら頭を下げるんだよ」
G「はー。職業ねえ…」
ご「まして、ネット乞食なんかとは生きる姿勢から何から違うだろう。ネット乞食なんて言葉は乞食に失礼だよ」
G「それもよくわからない物言いですねえ」
*1:昭和27年読売新聞