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無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

漫画投句「ハリスの旋風(かぜ)」

ノンセクション 漫画投句

今回の喧嘩稼業

 十兵衛は完璧に「殺す」気でやっているというね。「猛毒」というのが判っているのだから。

 では、何故そこまでの非道が出来るのかというと、格闘家惨殺、即ち睦夫・徳夫の父親殺人の真犯人に目星が付いていたからだろう。人殺しは殺されても文句を言えないだろ、という事なのかもしれない。

 徳夫は何もしてないのにと言う人がいるが、父親を殺していたことがようやく描写された。

 何年も前から振られていた伏線が、やっとこさ回収に入った。

 佐川徳夫が夢から覚める時が近づいていたって、まさか死を意識することによってとは(苦笑)。

 

 徳夫が自分で言っていたように、「卑怯」というのは弱者が最後に吐く言葉だった。

 もし、徳夫が油断せずに梶原vs工藤を見て研究していたなら、徳夫の眼力であれば異変の真相に近づいていたかもしれない。そうなっていたら、リング上に毒が有る事に気付き、あらかじめ除去していたかもしれないし、最低限、警戒はしていたろう。

 それを怠っていたのが佐川徳夫の敗着だった。

 「俺に油断は無い」 超ウケる(笑)。

 

 苦戦する徳夫を見て、睦夫の感情が揺らぎ始めた。

 涙を流す徳夫を見て、睦夫の感情が動いた。

 佐川睦夫は、強い徳夫を倒した本当の徳夫=十兵衛に、父・佐川雅夫に対する憤懣をぶつけに来るのは間違いが無さそうだ。

 その時にもし、睦夫が軍隊格闘家として武器を持っていたら、十兵衛は無傷ではいられない。しかし、それが片目の工藤に対して丁度良くなるかもしれない。

 それにしても、これだけ別格の強さを持つ佐川徳夫が正面からではまるで歯が立たないという、異次元の超人的強さだったのだな、佐川雅夫。尤も、山本陸と並び称されるくらいだから、それはそうなのだろうが。

 つまりは佐川徳夫でも山本陸には勝てなかったという感じだろう。準備はしていたようだが、父親にもあんな形でないと勝てないくらいでは。

 もしかすると佐川雅夫は、今際の際に徳夫を「卑怯者」と罵ったかもしれない。

 佐川徳夫の今は、何年も前から順序を踏んで、きちんと因果応報に描かれている。しかも、徳夫も十兵衛を殺す気だったのだから。

 

 この漫画にはスポーツマンは揶揄される形でしか登場しない。

 陰だ陽だと言っているが、目つき金的ありの殺し合いに準じる形での仕合を望み、第一試合の工藤vs梶原の凄惨なやり取りを見ても何も感じていない集まりなのである。

 入江文学がナメている関でも、金隆山でも、契機を持てば必ず陰側に踏み込める。そういう集まりなのだ。

 中でも特に、アンダーグラウンド無敗だった桜井は別格であるはずで、少なくともリング上に凶器となるものが有る事は認識したはず。

 第三仕合は入江文学と桜井による、アンダーグラウンドではない、設定のある殺し合いとなる。

 設定を活かした殺し合いでは、桜井に一日の長が有る。

 入江文学は、屍によって殺されるだろう。

 その時、梶原修人はそれが梶原柳剛流の勝利と考えるのか、はたまた梶原が入江を殺せなかったと嘆くのか。

 どちらでも物語は描けるので、木多の持っていき方次第となる。

 

展開予想小説「小説梶原柳剛流」

 「梶原さんが憎んでいた入江文学が屍によって死線を彷徨っているようです」

 沢信望が梶原に報告した。

 「何っ!!」

 梶原修人が、およそそれまで沢に見せたことの無い激しい反応を見せたので、沢は些か狼狽した。が、すぐに次に用意していた言葉を梶原にかけた。

 「おめでとうございます。梶原柳剛流の勝利ですよね」

 そう言われて梶原は、一瞬、そうなのだろうかと逡巡した。

 俺は親父に誉めて貰えるのだろうか、と。

 「違う!!」

 梶原の剣幕に沢は狼狽えた。

 「梶原の技が戸田流を倒したのではない! 利用されただけだ!」

 梶原は、自らに言い聞かせるかのように言葉を紡いだ。

 「確かに屍の仕掛けを残してしまった以上、十兵衛や入江がそれを用いるであろう事は予測していた。そこまではいい。戸田流を倒すのは梶原柳剛流なのだから、奴らが生き延びてくれなくては困るからな」

 梶原は踵を返し、何か液体の入った瓶を手にすると、自らの道場の玄関へと慌てて歩みを進めた。沢は梶原の言葉に傾注しながら、それに黙って付いていった。

 「だが、梶原以外の人間が入江を殺して、どうしてそれが梶原の勝利なのだ」

 「戻るのですか。入江文学を助けに」

 沢は梶原の急ぎ足に付いていきながら、答の予測できた質問をした。

 「馬鹿を言うな。入江を助けるのではない。梶原柳剛流の名誉を救うために戸田流を活かすのだ。戸田流を斃すのは梶原柳剛流だ!」

 なるほど、と沢は思った。きっと、自らが入江を殺すことに残りの全人生を賭けていた梶原は、目的を失ってしまうことが怖いのだろうと。

 同時に、敵である入江文学に闘う者同士の、何か特別な感情が有るようにも沢は感じた。しかし、それを確認したところで梶原は肯定しないだろう。

 梶原が手にした瓶は、間違い無く血清だろう。だが今から飛行機で引き返しても、果たして入江の命を救えるのだろうかと沢は思った。

 「お前は来なくてもいいぞ。行けば板垣組に何をされるかわからんからな」と道場を出ながら梶原が口にした。

 「見くびらないで下さい」

 沢は歩調も口調もまったく変えずに返答を続けた。

 「これでもこの位置に来るまでに修羅場は何度もくぐっています。二人で作る、新しい板垣組ではないですか」

 梶原はククと軽く笑みを含み、歩を進めるまま返答した。

 「そうだ。『俺たちの』板垣組なのだから何も怖れる事など無いのだったな。入江を、戸田流を活かしたら、すぐにタンの所に行って次の行動に移る必要が有る。考えてみればお前もいた方がいい。予定は早まってしまったが、修正可能な範囲だ」

 沢は満足そうな顔で梶原の表情を覗いた。

 焦りの色濃い顔に、少し余裕のようなものが出ていた。

 「待っていろ入江文学! 梶原柳剛流を怖れるからといって、あの世へ逃げたりするなよ!!」

 沢の運転する車は、全速で飛行場へと向かった。

 

 

漫画回顧:喧嘩漫画の系譜(1)「ハリスの旋風」(ちばてつや

 

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  『喧嘩稼業』はその名の通り、スポーツの祭典ではなくてなんでも有りの喧嘩漫画の最終形なのだが、喧嘩漫画の原型を辿るとここに行き着く。

 どちらも講談社(『ハリスの旋風』は少年マガジン)なのだが、大日本雄弁会の社風と違和感が無いのかもしれない。

 この頃は喧嘩漫画なんてそのままでは許されない時勢でもあるし、スポーツ漫画との奇妙な平衡を保っている。

 根本は明朗学園漫画で、更にその先祖は関谷ひさしの『ストップ!にいちゃん』になる。

  だが、『ストップ!にいちゃん』では主人公の南郷は喧嘩も無敵ながら、スポーツや学園生活が主軸で、喧嘩の場面はほとんど無いし、出てもアッサリと片が付いていた。

 

 昭和40年代に入った『ハリスの旋風』では、南郷少年を更に粗暴にした形で、主人公の石田国松が描かれた。

 彼は喧嘩っ早くて無敵、しかもスポーツ万能で、様々な部で活躍する。

 南郷勇一の外観を小さくして、勉強も一番という設定を裏返した存在だった。

 国松は勉強がまるで駄目で、いつも廊下に立たされる。その分、完全無欠のスーパーマンだった南郷よりも身近だった。

 明朗学園漫画という根本はそのままであるのは、まだ時代がそこまでだったのと、漫画家のちばてつやの性向とに由来する。

 

 とは言え、喧嘩の描写はかなり進み、生徒同士での殴る蹴るは更に激しく、日常的に描写されていた。

 中でも番長との決闘では、完全に喧嘩漫画として確立されていた。

 背丈が異常に大きく、3m以上は有ろうかという番長を相手に、チビの国松は素手では勝てないので、大きな岩を用いて退治する。

 その他にも、砂をかける目潰しだの、「喧嘩」がまともに漫画として描かれた最初は、ほぼ間違い無くこの作品であったはずだ。

 でも、この時代の漫画は根底が暖かくて、読後感がとても良い。あの時代への郷愁を抑えられなくなる。

 ワタクシが好きな漫画の100本に、間違いなく上位で入る作品である。

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