無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

喧嘩漫画の系譜(8)「硬派銀次郎」(本宮ひろ志)


 

 これは確か、一番最初は週刊ジャンプの愛読者賞作品として発表されたように記憶している。いずれにしても、最初は単発の読み切り作品だった。その時の題名は、『硬派 山崎銀次郎』だった。

 それが人気が有ったのかどうか知らないが、そのままの設定で月刊少年ジャンプで連載されたのが、この作品である。題名が一部省略されてしまったのだ。

 内容としては、山崎銀次郎という天涯孤独の中学生を描いた作品であるが、この銀次郎、勉強はサッパリでチビだが喧嘩無敵という、非常によくある設定の主人公ではあるものの、侠気が有って、女生徒も含めて全校の人気者なのである。

 

 単発での最初の話では、たしか死んだ兄貴の嫁さんが捨てた赤ん坊を育てていたかと思う。それで余計に女生徒の人気が高かった。

 但し、銀次郎は「硬派」と銘打たれているだけに、女なんかには心底目もくれず、それどころか女性蔑視の塊で、今の世なら問題発言を連発している。

 そこに転校してきたのが高子である。高子は顔は良いが背が高く向こう気も強く、女性蔑視の銀次郎が気に食わずに最初は対立する。

 銀次郎は女生徒を「レグホン」と呼んで馬鹿にしている。「卵を産むしか能がない」という意であるが(怖)、それに高子がこう返すのだ。

 

「あーら、のべつまくなしに産むニワトリと一緒にしないで。あたしたちなんて月に一回よ」

 

 女生徒は恥ずかしがって嬌声を上げ、周りの男子生徒が「うひひ、アンネちゃんの事だぜ」と耳打ちする。

 まだ子供だったワタクシには正確な意味は掴みづらかったが、生理の事だとは判った。でも、月に一回なのか?とは思った。

 でも実は、いまだによく判ってはいない。本当に月に一回なのか?

 生理については、なんだか大変だなあとは思うものの、シモの話なので嫌がられる危険性が有って、なかなか率直に女性に聞けない事柄だ。と若い頃は思っていたし、今となっては聞く気にもならない。

 

 こういう、どちらかというとホノボノした学園生活の描写も多いが、銀次郎の特技は喧嘩なので、多くの話で喧嘩が絡んでくる。

 言ってみれば、『ハリスの旋風』を本宮調にリメイクしたと考えると、解る人には非常に簡潔な解説となる。

 当時を知らない人で、この作品を読んで、この頃の女性観はこんなだったのかと思う人も、もしかしたらいるかもしれない。

 そうではなくて、この頃から銀次郎のような考え方は既にアナクロとして嘲笑の対象であって、しかし銀次郎はそうなっておらずに女生徒からも好かれているというのが、漫画表現なのだ。

 

 喧嘩の相手は話のわかる暴力教師だったり、ヤクザの息子だったり。

 熱血暴力教師が遅刻した銀次郎に文句を言うと、銀次郎はこう返す。

「あんた、一回も遅刻したこと無いの? もし一回でも有るんならそういうこと言わない方がいいよ」

 勿論、徹底的にぶちのめされてしまう(笑)。紆余曲折あって、二人は決闘まで行く。

 そして二人はわかり合うのだが、教師は当然、暴力が問題となって追い出されてしまう。

 

 ヤクザの息子は佐々金太といった。

 なぜ名前まで覚えているかというと、銀次郎が殴り込む時に、「佐々金太おるけぇ~~~~!!」と木戸をぶち破る場面を覚えているから。

 金太はヤクザの息子で、誰もそれを怖れて反抗できないのだが、銀次郎だけは違っていた。そして佐々金太も、一人だけで戦える男だったという話だった。

 当時の同級生で「佐々木」という奴がいたので、ソイツの呼び名を「金太」にした。「佐々木ん太」だ。

 ワタクシのつける綽名は小学生時代から定着率が非常に高く、それもそこそこ定着した。ワタクシの他にもう一人、銀次郎を読んでいる有力者がいたから余計だった。ソイツと話していて、自然と佐々木=金太になっていた。

 本人はしばらくしてから、「お前、なんで俺のこと金太って呼ぶの?」と不思議がっていたな(笑)。 

硬派銀次郎 第1巻

硬派銀次郎 第1巻