無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

朝日ソノラマはなぜ鉄腕アトム主題歌を独占できたのか(46)

昆虫物語みなしごハッチ

 これは『ムーミン』が当たったのに味を占めたフジテレビが、今一度「母と子のフジテレビ」への路線回帰を目指した擬人化ファンタジーまんがでした。

 ただ『ムーミン』と違うのは、「ほろりと泣かせます」を売り文句にした、母恋物だった事です。

 子供向けテレビまんがでお涙頂戴の作品は例が無く、それも有って提供会社を探すのは難儀したようで、一見およそ子供番組の提供に相応しくないサッポロビールの提供となりました。

 

 サッポロは、初代『ゲゲゲの鬼太郎』がテレビまんが初の妖怪もので、やはりどこも尻込みしていたのを提供しており、フジテレビのテレビまんがに、隠された貢献をしている会社です。

 ビール会社ではありますが、リボンシトロンという清涼飲料を販売していたので、子供向け番組ではもっぱら、リボンシトロンなどの宣伝が流れました。

 

 当初は10%台半ばと、『ムーミン』同様の落ち着いた出だしでしたが、徐々に大人も巻き込んで話題を呼び、人気番組となりました。

 母恋物の内容とした企画の勝利と言え、この後、子供番組に雨後の筍の如く母恋物が溢れていく事となります。

 11月17日放送分からは、番組終了後に視聴者の子供がハッチ(声:栗葉子)と電話で話をするという試みも行われました。

 

 音盤としましては、レコードのコロムビアにシートのソノラマという黄金コンビ。

 コロムビアは『ちびっこのどじまん』出身の女の子たちを育てていく路線を続け、この番組の主題歌は、嶋崎由理が担当しました。

 フジテレビ、タツノコプロ日本コロムビアという三角体制が、この辺りから破竹の勢いを見せ始めていく事となります。

 

 そして、コロムビアは番組の人気を見て、翌46年にLPレコードも発売しました。

 テレビまんがのLP盤というのは、クラウンが『鉄腕アトム』のドラマ版を出した事は有り、『ハッチ』と近い時期に東芝が『サザエさん』の挿入歌含めた4曲とドラマを組み合わせたものを出していますが、音楽中心の物は、やはりコロムビアが初めて本格的にテレビまんがの音盤と取り組んだ『ジャングル大帝』で実現させて以来でしょう。

 これもまた大当たりしたようで、テレビまんがのLP盤も普通に企画されるようになっていくのですが、コロムビアタツノコプロの関係が非常に強固なものとなっていったのも、直接的にはこのLPが大きな契機となったのではないでしょうか。

 

 

赤き血のイレブン

 この年に始まった梶原一騎原作まんがの一つで、これは高校サッカーを描いたものです。

 いま見ると随分トンデモな内容も有りますが、なにしろこの頃はサッカーものなんてほとんど皆無だったので、初のサッカーテレビまんがを単純に喜んで見ていたサッカー好きは多かったようです。

 

 提供は森永の他に、プリマハム積水ハウス。やはり製菓会社だけでは製作を賄いきれないため、子供番組とは関わりの薄かった会社との相乗りとなっています。

 これには、同じ梶原原作の『巨人の星』が社会的ヒットとなった事が貢献している事は疑いが無いでしょう。

 

 これも『あしたのジョー』同様に多社が音盤化しており、シートはソノラマから(後にソノラマレコードでも出す)、レコードはコロムビア、ビクター、キング、テイチク、東芝、エルムという顔触れです。

 流石に『ジョー』程は売れなかった感じですが、この作品も一年続いてわりと好評だったので、全体としてはそこそこの枚数が出ている印象です。

 

 

男どアホウ!甲子園

 劇作家として飛ぶ鳥を落とす勢いだった佐々木守が原作を担当し、水島新司がほとんど初めて本格的に野球漫画に取り組んだものです。

 少年サンデー連載の漫画では、主人公の甲子園の幼少期から長嶋茂雄と対決するまでを描く長期ドラマでしたが、これは『男一匹ガキ大将』の後番組として、一日10分、週6日で一話完結という形だったため、例によって元の漫画の世界観からは遠いものとなりました。

 音盤としてはソノラマがシート(後に同じ内容でソノラマレコードで発売)を、レコードはキング、ビクター、テイチク、東芝が出しました。

 

 

キックの鬼

  これも、この年開始の梶原一騎原作テレビまんがで、TBSキックボクシングの大スター沢村忠を描いた漫画のテレビ化です。

 実際のキックボクシング人気に翳りが出ていたものが、この番組の人気で再び盛り返したという効果も有りました。*1

 

  主題歌も沢村忠が自ら歌ったのですが、この沢村がなかなかの美声で、東芝レコードの専属でした。

 そのため、レコードも東芝独占で、他には朝日ソノラマが音源借り受けに成功して、シートで 発売(後に同じ内容でソノラマレコードで発売)しました。

 

 日本コロムビアも久々にカバー盤を出していますが、ゆりかご会の女の子二人が歌うもので、テレビ版との違いが大きすぎました。

 沢村が所属した野口ジムの野口プロモーションは、翌年に五木ひろしの「よこはま・たそがれ」を手掛けて大成功し、それがまた、キック人気後退とも絡み合って、キックボクシングは衰退してしまいました。

 

*1:TBS50年史