無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

朝日ソノラマはなぜ鉄腕アトム主題歌を独占できたのか(23)

 昭和41年より放送開始となったテレビまんが主題歌を見て参りましょう。

 

 まず、『おそ松くん』ですが、テレビ化される以前に朝日ソノプレスがソノシート化を実現しており、当然、テレビ化後も朝日ソノプレスの独占が続きました。

 朝日ソノプレスのソノシートでは、テレビまんがの音盤のみならず、雑誌連載のみの人気漫画音盤化もしばしば実現しておりました。例えば関谷ひさしの『ストップにいちゃん』や、一峰大二の『黒い秘密兵器』等です。

 『おそ松くん』も、その路線だったのでしょう。奥付では昭和40年3月に、まずソノラマ独自の収録曲2曲で音盤化されておりますが、テレビ化後の41年2月に新盤が出されております。

 この新盤は、印刷関係は基本的にそのままで、ドラマも収録曲もそのままでありながら、更にテレビ主題歌まで加えた大サービス盤という風情でした。

 印刷関係は基本的に同じだったので区別はし辛いわけですが、表紙に「テレビ主題歌入り」と入っているのが大きく違います。

 

 おそ松くんは大人気漫画でしたから、雑誌連載だけの当時でもかなり売れたのでしょう。第二弾まで出ておりますが、そちらは「テレビ主題歌入り」とされた第一弾の改訂版とほぼ同時期に出ています。

 テレビ化の話を聞く前に、シート第二弾の話が進んでいたとしか考えられませんが、当然こちらもすぐに改訂され、「テレビの主題歌入り」となりました。

 更に、わかりづらくなったのを解消するためでしょうが、それら改訂版とほぼ同じ時期に、第三弾も出されました。こちらは勿論、最初からテレビ主題歌が収録されております。

 更に半年後の41年8月(奥付日付)に、藤田まことの歌う新主題歌を収録した第四弾も出されました。

 結局、おそ松くんのテレビ主題歌は、新旧二曲とも朝日ソノラマの独占で出されています。

 かなりの人気漫画でありながらソノラマが独占できたのは、やはりテレビ化前から唾を付けていたというのが大きいでしょう。

 

 さて、前年の夏頃に、橋本一郎が一挙に50万部の最低保障をして、ソノラマが藤子不二雄の絵の独占使用権を獲得したらしき『オバケのQ太郎』ですが、番組は視聴率30%を超える大ヒットとなり、人気に乗じて第2集も出て、レコードでは考えられなかったであろう最低保障部数も超えました。

 そんな折り、肩で風を切って歩く勢いの橋本に、編集部長が密命を下すのです。

 「あのオバQだが、サブテーマを1曲作ってな、番組のラストの空いているところにはめ込んで、テレビから流れるようにしろ」というものでした。*1

 橋本は、小学館やスポンサー(不二家)ならいざ知らず、うちはそんな事が出来る立場ではありませんと正論を述べるのですが、結局押し切られてしまうのでした。

 

 そして橋本は、親しくなっていたオバQの作曲家・広瀬健次郎や主演の曽我町子らと飲んでいる時にその話を切り出すと、広瀨が「それって面白いよ。例えばオバQかぞえ歌とかさあ」と乗って、幾つか題名を挙げたのでした。

 橋本は、その何曲かの作詞をスタジオゼロの藤子不二雄に依頼し、広瀨はそれらにたちまち曲をつけたのでした。

 橋本の誘いで録音に顔を出した、オバQ制作会社である東京ムービー藤岡豊プロデューサーは、石川進曽我町子が踊りながらノリノリで歌い出した歌を聞くや、「これはいい。メロディアスで親しみやすさがバツグンだ。これをサブテーマとして、番組で流すよ」と言ったのでした。

 三波春夫の『東京五輪音頭』が大ヒットしたから、オバQにも音頭が有っていいじゃないかという思い付きで作られた『オバQ音頭』は、こうして誕生しました。

 

 橋本の回想では『オバQ音頭』の事しか触れられていませんが、その話の中に出てくる「かぞえ歌」というのも実際に曲が作られており、第2集に収録されています。

 また、第3集に収録されている『オバケのQ太郎マーチ』(その後に出る『オバQマーチ』とは別の曲で、主題歌をマーチで編曲したもの)については、当時の新聞記事で「テーマ」としているものが有るので、昭和41年中頃にオープニングまたはエンディングで使われた可能性が有ります。

 そして『オバQ音頭』ですが、既に皆に忘れ去られているようですが、テレビに初登場したのは41年4月で、当初は花見の踊りをQ太郎が踊る絵だったようなのです。その辺は、実は歌詞(二番)にも現れています。

 4月9日にはホテル・オータニ芙容の間で大々的に発表会が執り行われ、作者の藤子不二雄両人と曽我町子が、歌い踊ったのでした。

 

 この時、既に不二家がハイカップの景品として二十万部を発注済み。

 子役時代の中田喜子が出演していた、そのフォノシートプレゼントのCMで、王冠一個と20円分の切手を送れば漏れなく貰えると宣伝したのが大当たりして、大反響となりました。

 主題歌に続けて、いや、それ以上の大ヒット間違い無しと踏んだ他の音盤会社は、いかに朝日ソノプレスの橋本が手掛けた歌と言えども、容赦なく簒奪にかかったのでした。

*1:鉄腕アトムの歌が聞こえる』橋本一郎少年画報社