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無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

朝日ソノラマはなぜ鉄腕アトム主題歌を独占できたのか(17)

 50年も昔の回想ですから、橋本一郎の著書には、事実検証を行うと些か整合性の取れない部分が散見されます。これは仕方の無い事であり、確実な証拠が有る場合は、あくまでもそちらを基に、橋本の証言を解釈していく必要が有ります。

 前回のオバQ副主題歌の話も、現実には『ジャングル大帝』よりも後の話となりますので、取り敢えず置いておきます。

 

 『ジャングル大帝』は、虫プロスタッフが初めて手塚治虫の頸木を逃れて制作した作品だといいます。尤も、それだけに視聴率が低下する毎に、御大からの嫌味の攻撃も激烈だったようですが。

 オープニングテーマも、スタッフは敢えて歌詞を必要としないオーケストレーションで作りたいと主張したため、ソノシートを売れる形にする事を考える橋本と対立、結構な激論を戦わせたというのです。*1

 そんな折り、どの様な経緯か、手塚本人がチャイコフスキー交響曲第五番第2楽章のイメージで作って欲しいと、富田勲に発注したというのです。

 しかも、それが50人以上の大編成によるオーケストラでと聞かされ、橋本は仰天しました。費用が通常の4~5倍になるのは間違い無いからです。『W3』以降、虫プロに於いては独占契約の朝日ソノプレスが主題歌の制作費を持つ事が暗黙の了解となっており、しかも歌の無い主題曲という事で、採算面で非常に厳しい事態となりました。

 

 編集部長にいつその旨を話そうかと思案していた橋本の所へ、顔馴染みのレコードディレクターが相談を持ちかけてきたというのです。

 橋本は某レコード会社のディレクターとボカしてはいますが、日本コロムビアである事は疑い有りません。彼は橋本に、こう切り出したと言います。

 「ジャングル大帝の主題歌を、うちでぜひ録音させてくれ。そのテープの権利関係を処理して、無料で提供する。だから今回は、うちからレコードを出させて欲しい」。

 

 それを聞いた橋本は、その伝で編集部長を説得しました。

 異常に経費がかかり、収益性の怪しい主題歌をコロムビア持ちで作ってくれて、ただで権利関係を処理して使わせてくれるというのですから、ソノラマとしましては、独占の形態が外れるとは言え、さほど不利な話でもないようにも思えます。

 更に橋本は、書店展開が出来るソノラマと、レコード店で売るコロムビアの違いも計算していました。

 最も大きいのは店舗数の差です。レコード店はそれより少し前の昭和36年当時、わずか1700店ほどでした。それは例によって業界保護のための規制が有ったためという事です。*2

 一方の書店は、昭和40年時点で7500店前後も有りました。*3

 ようやく富裕層や先進的な人間の娯楽から大衆化への道を辿り始めたばかりのレコード界は、より身近な書店を媒介とするシート音盤に、肝心の販売網で大きく後れを取っていたと言えます。

 現に、スーパージェッターにせよ宇宙少年ソランにせよ、コロムビアが出したレコード盤の方がステレオで音も良いはずですが、実売数はソノラマの足下にも及ばなかったはずです。

 橋本は、レコードは数万も売れないはずだと上司を説得しました。

 

 こうして数週間後には、音楽だけの主題曲、ハミングの主題曲、平野忠彦歌唱による主題曲という3通りの主題曲などを収録したテープが橋本の元に届きました。

 その歌の出だしは、1オクターブと1音も飛ぶという形で世界観の雄大さが表現されていましたが、それについて手塚治虫富田勲に変更を求めたといいます。*4

 手塚としては、視聴者が歌えないし普及しないという考えだったようですし、確かに子供向けとしては高尚すぎたかもしれません。

 しかし、原作の力や手塚・虫プロブランドの威光もまだ有って、かろうじてプラチナセールスにはなったとの事です。

 

 この難しい主題歌に難色を示したのは、原作者、ソノシート会社にとどまらず、スポンサーの三洋電機も危機感を抱いたようです。

 そこでサンヨーは三木鶏郎に依頼し、独自にCMソングを作成。これをデューク・エイセスが歌唱して流したものですから、子供たちは、どちらがジャングル大帝の主題歌なのか混乱した者もいたようです。

 むしろサンヨーCMソングの方が従来の感覚から言えばテレビまんが主題歌そのもので、実際に続編の『新ジャングル大帝 進めレオ!』では、その歌がハッピー・ビーンズという名前での安田祥子由紀さおり姉妹の歌唱により、正真正銘の主題歌に昇格してしまいました。

 

 それはさておき、巨人・コロムビアが、とうとう完全自社原盤でテレビまんが主題歌の制作に漕ぎだしてきたのでした。

 それまでのテレビまんがレコードは、スーパージェッターにせよ宇宙少年ソランにせよ、従来からあった「SC」ナンバーで発売されていました。

 しかし、ここに於いてコロムビアは新たに「SCS」ナンバーを設置、栄えある SCS-1 として『ジャングル大帝』を発売したのです。

 このSCSナンバーこそ、コロムビアが本格的にテレビ音盤と密着する事となる栄光の番号であり、後にここを足場として、朝日ソノラマに替わる一大アニソン王国を築く事となるのです。

*1:鉄腕アトムの歌が聞こえる」橋本一郎少年画報社

*2:星光堂物語~星光堂が卸業を始めた頃、そして今 http://www.seikodo.co.jp/about_us/seikodo_story.html

*3:新版 出版データブック(出版ニュース社)

*4:アーカイブ】作曲家・冨田勲:6 手塚治虫から突然電話でオファーhttp://digital.asahi.com/articles/ASJ584JT3J58UEHF009.html?rm=337

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