無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

朝日ソノラマはなぜ鉄腕アトム主題歌を独占できたのか(16)

 引き続き昭和40年のテレビまんが音盤を見ていきます。

 『怪盗プライド』は、オープニングの形態が不明ながら、おそらく主題歌は無かったと思われます。ワタクシの記憶でも、いきなり本編から始まっていた事しか覚えていません。

 

 『遊星少年パピイ』は、朝日ソノラマの他に現代芸術社からもシート音盤が出されました。

 橋本一郎が『鉄人28号』で三木鶏郎の許可を取り付けた際、「独占」という文言は付加していないようですので、三木鶏郎も条件さえ合えば複数社に許可していたのでしょう。

 ただ、その条件というのが破格の権利料だったので、あまり多くの社が乗ってこなかったのではないかと思われます。

 

 『W3(ワンダースリー)』は虫プロですので、朝日ソノプレス(ソノラマ)の独占です。

 橋本一郎の推薦によって、作詞は児童文学者の北川幸比古、作曲は宇野誠一郎となりました。*1

 その打ち合わせの際、手塚治虫は、日本調のいわゆるヨナ抜き音階はやめて、ドレミファソラシドの長音階を使い、世界に通用する歌を作って下さいと力説したようです。第一作のアトムの時から既に世界を意識していた手塚は、その自説をより具体的に指示しました。

 因みに、少し前の昭和38年(鉄腕アトムの3ヶ月後)から始まっていた『銀河少年隊』という人形劇も手塚治虫作品で、一部に虫プロによるアニメーションを使用しながら、主題歌音盤(シート)はパピイも出した現代芸術社が出しておりました。

 これは、一社に肩入れするわけにはいかない公共放送のNHK制作という事が有り、さしもの朝日ソノラマも独占は不可能だったために諦めたのか、そもそも商品化に食指が動かなかったのか、後者の可能性が高そうです。

 しかも放送開始当初の主題歌歌手は、エイトマンの時にも難攻した東芝所属の坂本九でしたから、余計にその気が起きなかったのでしょう。

 

 『オバケのQ太郎』はTBSですので日音が管理。朝日ソノラマに加え、ビクター、ソノレコード、コダマプレス、コロムビアといった所がまた音盤を発売し、コロムビアはコロ・シートを手掛けました。

 ところが橋本一郎の著書による回想では、「独占契約を結ぶことができました」となっています。これは、どういう事なのでしょうか。 

 ワタクシはおそらく、橋本の記憶違いなのであろうと思います。

 彼が小学館および藤子不二雄と交渉して権利を得たソノラマの「独占」は、作者・藤子不二雄の絵の事であるはずなのです。音盤は現実として、上記の社からほぼ同時に発売されています。

 

 それはともかく、彼が小学館(と藤子不二雄)から「独占」の確約を取り付けたときの殺し文句は、「50万部の最低保障をする」というものでした。

 これは常識では考えられない破格の数字ですが、それだけの自信が有ったのでしょう。当時、少年サンデーの発行部数がようやく60万を超えた頃だとされますから、小学館側の驚愕が察せられます。

 結果は、橋本の目論見は図に当たり、オバQは久々の特大ヒット漫画となりました。

 意気揚々としている橋本に、朝日ソノプレス編集部長からの密命が下ります。それは、オバQのエンディング用に主題歌を作って、それをテレビから流れるようにしろという、それまでの番組・音盤制作の常識を覆すものでした。

 

*1:鉄腕アトムの歌がきこえる」橋本一郎少年画報社