無駄じゃ無駄じゃ(?)

すべては無駄なんじゃよ

朝日ソノラマはなぜ鉄腕アトム主題歌を独占できたのか(10)

 ともあれ、朝日ソノプレス(後の朝日ソノラマ)の橋本一郎鉄腕アトムの音盤に関し、独占という形で虫プロと契約を交わす事に成功しました。

 それから多少の難産は経験したものの無事に発売まで漕ぎ着け、発売日は11月15日でした(奥付は12月15日表記)。

 丁度この頃、日本のテレビは空前の国産漫画ブームが始まろうとしていました。

 アトムの宿敵『鉄人28号』が10月20日、『エイトマン』が11月7日、『狼少年ケン』が11月25日にと、立て続けに放送を開始したのです。

 元日に始まった『鉄腕アトム』の絶好調を見て早速後追い体制に入った関係各社が追いつくのに、10ヶ月以上は要したわけです。

 橋本一郎はこれを見て、どれも自分達で独占販売しようと決意したのでした。

 

 ワタクシは以前、これら放送時期を見て、国産テレビ漫画が量産されだしたので音盤化も話題になってきたのだろうと思っておりました。

 つまり、アトムの音盤化が11月15日に実現しているのは、他の作品との絡みで注目されたからなのだろうと。

 ところが橋本一郎の回想を読む限り、アトム音盤の発売日周辺に他の作品が立て続けに放送が始まっているのは、ただの偶然だったのでした。

 橋本がアトム音盤化を思いついてすぐに制作に取りかかり、出来上がったのがたまたまその時期で、そして橋本はそれら後発漫画を見て、その時にそれらの独占も思い付きのように決意しているのです。

 老舗レコード会社は鉄腕アトム主題歌という大魚を取り逃したばかりでなく、それに続く魚影にも、まったく関心を寄せている様子が、橋本の回想からは見えてきません。橋本は入れ食いのように、次々と音盤化契約を結んでいくのでした。

 

 『鉄人28号』については、作詞作曲の三木鶏郎に外国曲並みの印税を要求されたのが第一の難関でした。

 通常の三倍以上と考えられる印税が要求されたようですが、これに関しては交渉の余地が無いと判断した橋本は譲歩。橋本は次に、歌詞の「グリコ」の部分を削って収録する事の承諾を得ようとしました。

 グリコは鉄人の提供会社であり、三木は鉄人よりもグリコを強調するように作曲を依頼されていたものですから、その部分を削ると曲としてはサビが無くなりおかしなものになると、その提案を拒絶し、両者間に沈黙の時が流れました。

 しかし、印税で橋本の譲歩を見た三木のマネージャーが助け船を出して三木を説得し、なんとか「グリコ」の部分は削除して収録となりました。

 この時、三木のマネージャーは三木に対し、「要は鉄人のソノシートを、一日も早く売り出す事ですよ」と進言しています。

 この辺から、まだレコード会社各社は『鉄人』にも触手を伸ばしていなかった事が窺い知れます。

 

 第二の謎の解は、実は非常に単純なのではないかと推測できそうです。

 つまり、老舗レコード会社各社は、鉄腕アトム鉄人28号の主題歌にまったく興味を持っていなかったという事です。

 では、なぜ興味を持っていなかったのかという点に関しましては、また後に触れる機会が出てくる予定です。

 結局、この『鉄人』のソノシートはなんと、第一弾の『アトム』をも上回っていたであろうと橋本が回想する特大ヒットとなりました。

 アトムで120万枚という話ですから、傾きかけていた朝日ソノプレスも、この二作で大いに立て直しが利いたに違いありません。

 橋本は続け様に、『エイトマン』の音盤化にも動きました。

 但し、この『エイトマン』主題歌のソノシート化には、大きな障壁となる懸念のものが存在していました。

 主題歌歌手の克美しげるが所属する、東芝レコード専属という壁と、当時の絶大勢力・渡辺プロダクションの存在でした。